外国法に基づく行為に国内税法が適用されるかについての判断のポイント

海外で活動を行う企業や個人は、申告やタックスプランニングをするにあたり、海外での活動に国内税法が適用されるのかを判断しなければならない場面があります。国内税法が具体的な国名や法律上の概念を明記してくれていれば判断は容易ですが、そのような規定がなく、悩ましい場面も少なくありません。

そこで以下では、近時の裁判例・裁決から、外国法に基づく行為に国内税法が適用されるか否かについて、判断のポイントとなる基本的な考え方ないし一般的な傾向を分析してみたいと思います。

目次

米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップが所得税法等に定める外国法人に該当するか(最高裁平成27年7月17日判決)

本件は、米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(事業活動や投資活動を営むための組織体で、無限責任を負うジェネラル・パートナーと、有限責任を負うリミテッド・パートナーとによって構成されます)が行う米国所在の中古集合住宅の賃貸事業にかかる投資事業に出資した納税者が、当該賃貸事業により生じた損失の金額を納税者自身に帰属する損失として、他の所得と損益通算することができるかが争われた事案です1

このリミテッド・パートナーシップ(以下「LPS」といいます。)が日本の所得税法等に規定する「外国法人」に該当する場合は、この賃貸事業から生じる損失はLPSに帰属するのに対して、「外国法人」に該当しない場合は、その損失はLPSに出資した納税者に帰属するため、納税者はこの損失を他の所得と損益通算して所得を圧縮することができます(所得税法69条1項)。そこで、当該LPSが所得税法に規定する「外国法人」に該当するか否かが納税者と課税庁との間で争われることとなったのです。

所得税法は、外国法人の定義につき「内国法人以外の法人をいう」(同法2条1項7号)と規定するのみなので、そもそも外国法に基づく組織体が「法人」に該当するか否かをどうやって判断するのかから検討する必要があります。
この点につき、最高裁は以下のように判示しています。

…このような組織体の納税義務に係る制度の仕組みに照らすと,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは,当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。そして,我が国においては,ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり,そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上,納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると,外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては,上記の属性の有無に即して,当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。

そして、デラウエア州法がLPSは法律又はパートナーシップ契約により付与された全ての権限を行使することができる旨定めていることなど挙げ、デラウェア州法に基づくLPSは権利義務の帰属主体であると認定して、所得税法2条1項7号に規定する外国法人に該当すると結論づけました。

つまり、外国の組織体が日本の租税法における「法人」に該当するか否かの判断にあたっては、日本の租税法における「法人」の本質的特徴(権利義務の帰属主体とされること)を抽出した上で、その本質的特徴を外国の組織体が有しているか否かを基準として判断すべきとしています2。ここでは、LPSの米国の税法上の取扱い(組織体課税なのか構成員課税(パススルー課税)なのか)は考慮されていません

米国で行われた事業分割が法人税法に規定する分割型分割に該当するか(令和元年8月1日裁決)

上記最高裁判決の後、米国で行われた事業分割の法人税法上の取扱いについても、最高裁判決と基本的な考え方を同じくすると思われる国税不服審判所裁決が出ています3

この事案では、納税者(個人)が株式を保有する米国法人Hが、その事業の一部を分割して独立した会社Mを設立し、納税者らH社の株主に対してM社株式を1:1の比率で割り当てる方法により、事業分割(以下「本件事業分割」といいます。)を行いました。本件事業分割は、米国においては税制適格組織再編成に該当し、納税者は自身に割り当てられたM社株式につき課税されることはありませんでしたが、日本の課税庁は、これが納税者に対する配当所得として所得税の対象となると主張しました。所得税法24条1項は、法人から受ける剰余金等の配当であっても、「分割型分割」によるものは配当所得から除く旨規定しています。そこで、米国法に基づき行われた事業分割が所得税法に規定する「分割型分割」に該当するか否かが問題となったのです。

審判所は、まず、米国法に基づき行われた事業分割が所得税法に規定する「分割型分割」に該当するか否かの判断基準を以下のように示しました。

…分割型分割とは、法人税法第2条第12号の9のイ又はロが掲げる分割をいうところ、法人税法は、同号にいう分割の意義について特段の定義規定を設けておらず、我が国の会社法を準拠法として行われる分割に限るとはしていないことからすると、法人税法にいう分割は、我が国の会社法に準拠して行われる分割に限られず、外国の法令に準拠して行われる法律行為であっても、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備し、我が国の会社法上の分割に相当するものと認められる場合には、法人税法上の分割に該当するものとして取り扱って差し支えないものと考えられる。

そのうえで、本件事業分割の法的効果について、

…我が国の会社法上の分割では、分割の対象とされた分割会社の権利義務は、事業譲渡(会社法第467条《事業譲渡等の承認等》第1項参照)の場合のように個別に承継・移転されるのではなく、吸収分割契約又は新設分割計画により、承継会社又は新設会社に一括して承継されるという一般承継の法的効果が付与される(上記にいう「一般承継」とは、法令上、ある者が他の者の権利義務の全てを一体として受け継ぎ、法律上その権利義務に関して他の者と同じ地位に立つことをいい、「包括承継」ともいう。)。
他方、米国においては…権利義務の一般承継を特徴とする会社分割制度は存在しない。すなわち、我が国の会社法上の分割が、上記のとおり、法的効果としての権利義務の一般承継をその本質的要素とするのに対し、本件事業分割はかかる要素を欠いており、この点において、本件事業分割は、我が国の会社法上の分割に相当する法的効果を具備するものとはいえないというべきである。

と述べ、本件事業分割は分割型分割には当たらないと判断しました。ここでも、LPS事件と同様、外国における課税上の取扱い、すなわち米国においては本件事業分割が税制適格であり、M社株式の割当が課税対象とされていないという事実は考慮されていません。問題となっている要件(概念)の国内私法上の本質的特徴を抽出した上で、その国内私法上の本質的特徴を外国法上の行為(本件事業分割)が備えているか否かを検討するという判断枠組みは、上記LPS事件と共通しているということができます。

シンガポール所在の銀行のDepositsから生じる利子が所得税法上の利子所得に該当するか(平成25年7月8日裁決)

また、LPS事件以前にも、基本的な考え方が共通していると思われる国税不服審判所の裁決があります4

本件は、国内居住者である納税者が、シンガポール所在の銀行から資金を調達するために担保として同銀行の口座に預け入れた「Deposits」なる金銭が、「銀行その他の金融機関に対する預金」(所得税法施行令2条)に該当するか否かが問題となった事案です。このDepositsが預金に該当する場合は、Depositsから生じた利子は利子所得として所得税が課されることから、Depositsが預金に該当するか否かが争われました。

審判所は、所得税法は「預金」の定義を明示的に規定しておらず、「預金」の意義については一般的な用語の意味を基に考えざるを得ないとして、以下のとおり、預金の法的性質及び経済的意義から預金該当性を判断するとしました。

A 預金の法的性質について 
…その具体的な契約内容が民法上の消費寄託契約のみではなく、他の様々な約定も存在するものであっても、銀行その他の金融機関を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものについては、預金であるということができるものと解される。
B 預金の経済的意義について
預金の経済的な意義としては、銀行その他の金融機関が、預託を受けた金銭を一定期間運用して利益を上げる一方、通常、預金者に対しては、一定の割合の金員(利子)を支払うものであると解される。

「Deposits」には、一般に預金という意味がありますが、本裁決はそのことを理由に本件のDepositsが所得税法上の「預金」に該当すると判断しているわけではありません。本裁決は、国内税法(所得税法)が規定する「預金」の本質的特徴を法的性質と経済的意義から分析したうえで、その特徴を本件で問題となっているDepositsが有しているか否かで預金該当性を判断しています。

結論として、審判所は、シンガポール銀行法やG銀行のサービス約款の内容等から、本件Depositsがこれらの法的性質及び経済的意義を有していると認定して、本件Depositsが預金に該当すると判断しました。

判例・裁決から見えてくる判断のポイント

このように判例や裁決例を見てくると、いずれも準拠法、法律行為、問題となる国内租税法概念が異なる事案ではあるものの、判断枠組みについて一定の方向性を見て取ることができます。すなわち、外国の準拠法において用いられている文言や、外国の税法上の取扱いによって判断するのではなく、

  • 問題となっている要件(概念)の国内法上の本質的特徴を抽出した上で、
  • その本質的特徴を外国法上の行為が備えているかを、根拠となった外国法の文言や仕組み等を踏まえて判断する

という点で共通しています。

こうした判例・裁決の傾向は、これら以外の国内租税法概念について迷いが生じた際も、参考になるものと思われます。
例えば、所得税法及び法人税法は、外国が課する罰金に相当するものや、外国が納付を命ずる独占禁止法に規定による課徴金に類するものは、所得計算上、損金に算入しない旨規定しています(法人税法55条5項1号・3号、所得税45条1項7号・10号)。

外国で経済活動を行う中で、外国の法律や制度に基づき金銭的負担を課せられた際、それが日本の税法上の罰金や課徴金に該当するか(=損金算入することができるか)を判断するためは、罰金や課徴金の本質的特徴5を抽出した上で、根拠となった外国法の文言や仕組みから、金銭的負担がその本質的特徴を備えているかを検討することになると考えられます。

弁護士 玉川竜大

  1. 法定耐用年数を超えた米国中古不動産は、建物価格を短期間で減価償却することができるため、これに投資することで多額の減価償却費により損失を生じさせ、他の所得と損益通算することで所得を圧縮できるという節税効果がうたわれていました。 ↩︎
  2. もっとも、このような判断プロセスを経ずとも、当該組織体が「法人」に相当するか否かが外国法上明白である場合もありうることから、最高裁は「まず,より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として,①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから,当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり,これができない場合には,次に,当該組織体の属性に係る前者の観点として,②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべき」として、スクリーニング的に①の観点も検討している点に注意が必要です(結論としては、本件では①の観点では判断できないとして②の観点で判断しています。)。 ↩︎
  3. https://www.kfs.go.jp/service/JP/116/02/index.html ↩︎
  4. https://www.kfs.go.jp/service/JP/92/07/index.html ↩︎
  5. 「本質的特徴」をどのようにして抽出すべきかについては、一般論を述べるのは難しいものの、LPS事件で最高裁が「そのような属性(権利義務の帰属主体性のことです。)を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる」と述べていることからすると、国内租税法がいかなる趣旨でその概念を課税要件としたのかという観点からの分析が有用と思われます。罰金や課徴金が損金不算入とされているのは、これらは違法行為に対する制裁ないしは一定の行為を抑止するための経済的負担であるから、もし損金算入を認めれば税負担の減少によってその効果が減殺されてしまうおそれがあるためです(金子宏『租税法』(第24版)421頁)。このことからすれば、「罰金」「課徴金」の本質的特徴として、少なくとも制裁金としての性質を有していることが必要ということはできそうです。 ↩︎
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