ECサイトやフリマアプリ、クラウドソーシングなどのいわゆるプラットフォームサービスにおいて、出品者などのユーザーに利用規約違反があった場合や長期間サービスを利用しなかった場合に、プラットフォーム事業者がユーザーの売上金の送金を停止したり、売上金を没収1するなどして、ユーザーとの間でトラブルとなっているケースが見られます。
本記事では、こうしたプラットフォーム事業者による売上金の送金停止・没収に関する法律問題と実務上の留意点について説明いたします。
売上金の送金停止・没収には利用規約の定めが必要
ECサイトやフリマアプリ、クラウドソーシングなどのプラットフォームビジネスにおいては、商品の送付と代金決済が円滑に行われるよう、代金が買手ユーザーから売手ユーザーに直接支払われるのではなく、いったんプラットフォーム事業者に支払われた後、プラットフォーム事業者から売手ユーザーに支払われる仕組みとなっているものが多くみられます。
ところが、ユーザーが禁止行為を行った場合やユーザー間でトラブルが生じた場合、ユーザーが長期間利用しない場合など、被害の回復やプラットフォームの運営管理の観点からユーザーへの送金停止や売上金の没収が必要となる場合があります。
このような送金停止・没収を行うためには、一定の場合にプラットフォーム事業者が売上金の送金停止及び没収ができる旨と、その条件を利用規約に明記し、売手ユーザーと合意しておくことが必要となります2。
以下では、利用規約に売上金送金停止条項・没収条項を定める場合の注意点につき、裁判例を踏まえて解説していきます。
売上金の送金停止条項について
売手ユーザーに対する売上金支払の停止が認められた裁判例(東京地裁令和4年9月13日判決)
本件は、インターネット上におけるマーケットプレイスを通じて商品を販売していた売手ユーザー(原告)が、このマーケットプレイスの運営事業者(被告)から、売手ユーザーの取引に資金洗浄等の違法行為の疑いがあるとして利用規約に基づきアカウントの停止と売上金の無期限送金停止の措置をとられたため、運営事業者に対して、売上金の支払いを求めて提訴した事案です(以下「裁判例①」といいます。)。
本件のマーケットプレイスの利用規約には、
サービス利用者のアカウントが、偽装、詐欺、又は違法行為に利用されているものと運営事業者が判断した場合、運営事業者は、その独自の裁量により、サービス利用者への送金又は支払を永続的に留保することができるものとします |
との規定がありました(以下「本件規定」といいます。)。運営事業者は、売手ユーザーの売上の大半が同一のアカウントからの大量購入であること、当該アカウントと売手ユーザーのアカウントの情報が類似していることから、売手ユーザーが出品した商品を別のアカウントを用いて自ら注文していた蓋然性が高く、これが資金洗浄等の違法行為を行う目的である疑いがあると判断し、本件規定に基づき売上金の無期限送金停止を実施しました。
売手ユーザーは、運営事業者に対して送金停止の根拠及び解決方法を明らかにするように求めましたが、運営事業者は不正行為の蓋然性が高い旨及び資金洗浄が疑われる旨回答して、送金停止を継続したままであったことから、売手ユーザーは、売上金の送金を求めて運営事業者を提訴しました。この訴訟において、売手ユーザーは要旨、
- 本件規定のうち「永続的な」送金等の留保を認める部分が、事実上売上金の没収と同義であることなどから、公序良俗に反して無効である
- 本件規定は信義に反して売手ユーザーの利益を一方的に害するものであることから、民法548条の2第2項《定型約款の合意》により合意しなかったものとみなされる
- (本件規定の合意が有効であるとしても)売手ユーザーは本件規定に該当する行為をしてしない
と主張していました。
①永続的な送金留保規定は公序良俗違反か
裁判所は、①公序良俗違反の主張については、
本件規定は、違法行為等によって生じた売上金について不正な資金の移転を阻止するという…目的を達成するために必要不可欠な手段として送金等の留保の措置を定めたものであり、「永続的に」サービス利用者への送金等を留保し得ると定めた部分に関しても、その事柄の性質上、送金等を留保し得る期間を一定の期間に限定するのが困難であることや、調査によって違法行為等が存在しないと認められない限り送金等の留保の措置を継続して行い得る旨を定めているものと合理的に解釈し得ることなどに照らせば、上記の目的を達成する上で必要かつ相当な範囲内にとどまっていると評価すべき |
として、公序良俗違反による無効の主張は認めませんでした。
②永続的な送金留保規定は定型約款の不当条項か
次に、②に関して、民法の規定は、定型約款に該当する利用規約の合意の有無について以下のとおり定めています。
第五百四十八条の二 2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。 (定型約款の合意) |
プラットフォームサービスの利用規約は、一般的に民法上の定型約款に該当する場合が多く、本件でも定型約款に該当することは売手ユーザーと運営事業者との間で争いがありませんでした。そのうえで、売手ユーザーは、本件規定は事実上売上金を没収するのと同義であるなど売手ユーザーの不利益が大きく、その不利益と本件規定の効力が否定された場合の運営事業者の不利益は明らかに均衡がとれていないとして、548条2項の適用により送金留保規定は合意しなかったものとみなされる旨主張していました。
これに対して、裁判所は、
3。 そうすると、本件規定は、信義則に反してサービス利用者の利益を一方的に害するものと認めることはできないから、民法548条の2第2項に定める不当条項等に該当するということはできず、これに反する原告の主張は採用することができない。 本件規定は、違法行為等の存在をうかがわせるような徴表が発見されたことを前提に、不当な資金の移転を阻止するために不可欠な手段として送金等の留保の措置を取ることができるとするものであり、上記の目的を達成する上で必要かつ相当な範囲内にとどまっていると評価すべきものである。また、本件規定の意味内容が、サービス利用者のアカウントが違法行為等に利用されていると被告において判断した場合には、送金等の留保の措置を、期限を定めることなく取ることができるものであることは、本件規定の文言からサービス利用者が理解し得るものであり、かつ、本件規約中、本件規定部分は太字で記載され、サービス利用者に対しても強調されて示されていることからすると…本件規定が、サービス利用者にとって認識困難であるとか、あるいは予測が困難であるということはできない |
として、送金停止条項について合意しなかったものとはみなされないと判断しました。
③本件の売手ユーザーが本件規定に該当する行為をしたか否か
上記①②の判断により、永続的な送金留保規定自体は合意が成立し有効であるとの判断が示されたことになりますが、③本件の売手ユーザーに送金留保に該当する行為があったのかは別途問題となります。この点については、裁判所は、
- 原告は、本件サイトにおいて、本件取引以前に電化製品の取引を行ったことはなかったにもかかわらず、令和元年5月10日から同年6月5日までのわずか1か月弱の短期間において、本件購入者アカウントとの間で、1台30万2000円の高級デジタルカメラ(本件カメラ)を242台販売し、その取引総額は7308万4000円に上っていた
- これらの販売先はいずれも特定のアカウント(本件購入者アカウント)によるものである上、本件カメラを含む原告と本件購入者アカウントとの取引(本件取引)は、取引総額7456万7629円の全てにつき、支払手段としてY1ギフト券が使用され、しかも使用されたギフト券は不特定多数人が購入したものである…など、本件サイトを利用した取引として極めて異質であるのみならず、Y1ギフト券を現金化する目的で取引が操作された疑いを抱かせるものである
- 本件購入者アカウントの登録情報のうち登録名称(「E」)は原告代表者がインターネット上で使用したことがある名称であり、登録住所も原告の所在地に近接する住所地であること…や、原告代表者自身が、被告に宛てた2通のメール(本件メール)において、注文を増やし、売上げを操作する目的で、「E」名義による本件取引を作出したと認めていること…を併せ考慮すると、本件取引は、原告代表者が自ら本件購入者アカウントを利用して行った架空の取引であることが強く推認されるというべきである
として、売手ユーザーの行為は利用規約に定める送金停止事由に該当し、運営事業者は送金支払停止をすることができると判断しました。
なお、送金停止事由(違法行為等の疑い)の有無については、裁判所は、上記で引用した以外に相当の紙幅を割いて売手ユーザーの主張を排斥しています。このことを踏まえると、送金停止規定自体が有効であるとしても、実際に個々のユーザーに対して送金停止措置をとろうとする場合は、送金停止事由があるかについて慎重な検討が求められるといえます。
補足:消費者契約法上の不当条項に該当するか
本件は、売手ユーザーが事業者(企業)であったため、消費者契約法の適用は問題となりませんでしたが、フリマアプリのような、事業者でない個人がメインユーザーであるプラットフォームサービスの場合、定型約款の不当条項規制とは別に、消費者契約法10条の不当条項規制の適用も問題となりえます。
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 (消費者の利益を一方的に害する条項の無効) |
消費者契約法10条の不当条項規制は、定型約款の不当条項規制と異なり、不意打ち性ではなく売手ユーザー・プラットフォーム事業者間の交渉力差を踏まえた利益衡量が不当性判断の中心となるという違いがあります。
もっとも、プラットフォーム事業者と売手ユーザーとの間の交渉力差という意味では、売手ユーザーが事業者である場合と個人であると場合とでそう変わらない場合が多いと思われます。また、売上金の送金停止が不正行為による資金移動を阻止するために必要かつ相当な措置であるという点も、売手ユーザーが事業者か消費者かによって変わるものでもありません。このように見ると、個人向けプラットフォームサービスであっても、定型約款の不当条項に該当しないような送金停止条項であれば、消費者契約法10条の不当条項にも該当しない場合が多いものと考えられます。
売上金の没収条項について
上記の裁判例①のように、一定の場合に無期限に売上金の送金停止ができるとしても、当該売上金は、運営事業者からみれば、売手ユーザーからの預り金であるか、被害者への補償に充てる原資となりうるものであるため、いつまでも留保したままにしておくわけにはいきません。送金停止事由が解消された場合は(例えば、不正行為の疑いが晴れれば)送金を再開すれば足りますが、送金停止事由の解消が判断できない場合、又は送金停止事由が解消されないことが確定した場合は、運営事業者としては、売上金を消滅させ処理を確定したいところです。
不正行為等が疑われる場合の売上金の没収
まず、ユーザーに不正行為等が疑われる場合の売上金の消滅・没収が可能か否かについて検討すると、上記裁判例①によれば、不正行為等が疑われる場合に調査期間中に出金停止が許容されるのは、不正な資金の移転を阻止し被害の回復を図るためであると考えられるところ、最終的に不正行為であると確認された場合はなおのこと資金移転の阻止と被害回復の必要性が高まるため、売上金を没収する旨利用規約に定めることも一般的には許容されると考えられます。
なお、この点に関連して、上記裁判例①と同様、ウェブサイト上でユーザーがギフト券の売買を行うことができるプラットフォームサービスにおいて、使用済みギフト券を大量に出品するなどの売手ユーザーによる不正行為が疑われたことから、プラットフォーム事業者がユーザーからの出金請求後、同ユーザーの適法な取引による売上金についても消滅させる措置をとったため、そのような措置が認められるかが争われた裁判例4があります(以下「裁判例②」といいます。)。裁判所は、要旨、
- ユーザーによる不正利用の場合のみならず、24か月間利用がない場合にも利用登録が取り消され、利用登録が取り消された場合は売上金が消滅する(出金できなくなる)旨利用規約に定められていることからして、売上金の消滅の趣旨は、出金をしないままに登録が取り消された場合に無期限にその出金請求に応じなければならないことによる出金対応の事務処理負担を回避する点にある
- むしろ、利用規約18条5項が被告の一方的な登録取消により売上金をを消滅させることができるという趣旨をも含む規定であると解釈し、これを本件に適用することとなれば、当該ユーザーが適法に取得した売買代金についてまでも一方的に被告がその代金全額を領得することを認めることになりうるのであって,公序良俗違反5としてその有効性に疑義を差し挟む余地がある
として、適法な取引による売上金を出金請求後に没収することについては認めませんでした(不正行為等よるものであることが判明した売上金についてまで没収することができないと判断したわけではない点に注意が必要です。)。
ユーザーがサービスを長期間利用しない場合等の売上金の没収
不正行為等が疑われる場合の他に、ユーザーが長期間利用しない場合などの場合にも売上金を消滅させたいという事業運営上のニーズもあり得ますが、この点については、上記裁判例②が、売上金の消滅の趣旨は出金をしないままに登録が取り消された場合の無期限にその出金請求に応じなければならないことによる出金対応の事務処理負担を回避する点6にある旨述べていることからすれば、極端に短期間で売上金が消滅するような著しくユーザーに不利な内容でなければ、ユーザーがサービスを長期間利用しない場合に売上金を没収する利用規約の定めは、有効と認められる可能性は十分にあると思われます。
ただし、売上金の消滅はユーザーにとって最も大きな不利益である一方、出金事務負担回避の手段としては、一定期間出金請求がないユーザーに対してはプラットフォーム事業者から強制的に送金をするなどの措置を採ることも考えられ、実際にそのような措置を採っているサービスもあります。また、不正行為等の場合と異なりユーザーに落ち度があるわけでもありません。これらのことからすれば、一定期間経過をもって一律・一方的に売上金を消滅させるような利用規約は公序良俗違反や定型約款の不当条項規制などにより無効とされる可能性がないわけではありません。少なくとも、ユーザーからのレピュテーションリスクがある点には注意が必要です。
売上金の送金停止・没収に関する利用規約のまとめ
以上の裁判例①②を踏まえると、売上金の送金停止・没収に関する利用規約の効力は、一般的には以下のように整理することができます(ただし、サービスの内容、送金停止・没収条件の内容、売上金の金額などによっては上記裁判例と異なる判断がされる可能性に留意する必要があります。)。
- 不正行為等が疑われる場合に無期限に送金停止することができる旨の利用規約は、有効と認められる可能性が高い(裁判例①)
- 不正行為等が確認された場合に不正行為にかかる売上金を没収する旨の利用規約は、有効と認められる可能性がある(裁判例①からの推論)
- 不正行為等が確認された場合でも、適法有効な取引による売上金を没収する旨の利用規約は、無効とされる可能性が高い(裁判例②)
- 長期間サービスの利用がない場合など、出金事務負担回避の観点から売上金を没収する旨の利用規約は、有効と認められる可能性がある(裁判例②)
これを踏まえると、不正行為等が疑われる場合に暫定的に売上金を送金停止し、不正行為等が確認された場合及び長期間利用がない場合に最終的に売上金を消滅させる場合の利用規約としては、例えば、以下のようなものが考えられます。
第●条(売上金の送金留保) ユーザーのアカウントが、偽装、詐欺、不正行為又は違法行為に利用されている疑いがあると当社が判断した場合、当社は、その独自の裁量により、事前の通知なくユーザーへの送金又は支払を永続的に留保することができる7ものとします。 第●条(売上金の消滅) 以下の事由が発生したときは、ユーザーの当社に対する売上金の支払請求権は消滅するものとします。 ①ユーザーのアカウントが、偽装、詐欺、不正行為又は違法行為に利用されているものと当社が判断し、その旨当社がユーザーに通知した場合 ②ユーザーが●か月以上本サービスを利用せず、かつ、当社からの連絡に対して応答がない場合 【利用規約の例】 |
売上金の送金停止・没収時のプラットフォーム事業者・ユーザーの実務対応
プラットフォーム事業者の実務対応
ユーザーによる不正行為等が疑われる場合、法律上は、プラットフォーム事業者が送金停止や没収の理由を示さなければならない義務はなく、また、一度ユーザーに対して送金してしまうと、事後に不正行為等が確認された場合に被害の回復が困難となるおそれがあります。そのため、上記利用規約の例のように、不正行為等の疑いがある段階で事前の通知なく送金を停止することができる旨明記しておき、これに基づき速やかに送金停止措置をとることが適切なケースも多いと思われます8。
送金停止後の対応としては、上記のとおり、理由提示の法的義務はないものの、一方的に不正行為等ありと判断して売上金を消滅させると、ユーザーから提訴されることによる事務負担増のリスク、公序良俗違反などにより売上金没収条項が無効と判断されるリスクや、事前の調査や検討が甘くなる結果条項該当性を立証できないリスクがあり、また、訴訟にならずともレピュテーションリスクもあります。ユーザーへの通知に当たっては、これらのリスクを勘案し、違反行為の内容、ユーザーの属性、没収対象となる金額なども踏まえて総合的に判断する必要があります。
長期間ユーザーによる利用がない場合については、上記のとおり、利用規約に明記しユーザーと合意すれば有効に売上金を消滅させることができる可能性があり、また、プラットフォーム事業者に事前通知の法的義務もないものの、不正行為の場合と異なりユーザーに落ち度があるわけではないことからすれば、実際上に売上金を消滅させる(以後出金を拒絶する)場合は、対象ユーザーに対して事前に売上金の出金を促す通知をするか、プラットフォーム事業者の方からユーザーに強制的に送金するなどした方が無難な場合も多いと思われます。
ユーザーの実務対応
ユーザーとしては、利用規約をよく確認し、出金停止事由に当たる行為をしないようにすべきことは当然ですが、そのような利用をしていないにもかかわらず、出金停止措置をとられることもあり得ます。
送金停止・没収の理由が分からない場合や納得できない場合は、まずはプラットフォーム事業者に送金停止・没収措置の根拠となる利用規約の条項及び事実関係の説明を求めることになります。サービスによっては、AIにより不正取引を検知し自動的に送金停止措置をとるものもあり、ユーザー側では送金停止事由に見当もつかない場合も考えられ、このような場合は理由の提示が特に重要となります。そして、理由の開示を受けたうえで、①送金停止・没収条項の有無及び効力②送金停止・没収条項該当性を検討し、自らの見解の主張や送金停止・没収事由の解消を行っていくこととなります9。
(弁護士 玉川竜大)
- 売上金の「没収」とは、法律的には、ユーザーのプラットフォーム事業者に対する売上金の支払請求権の消滅を意味しています。 ↩︎
- 私法上の整理としては、代金をプラットフォーム事業者が受領する仕組みとして採用されることの多いいわゆる収納代行スキームにおいては、プラットフォーム事業者は売上金を売手ユーザーに代理して受領し、預かっているだけであるため、原則として、売手ユーザーはプラットフォーム事業者に対して委任契約に基づく受取物引渡請求権(民法646条1項)を有していることになります。そのため、利用規約等により合意しない限り、プラットフォーム事業者はこの請求権の履行留保及び消滅を主張することはできないこととなります。 ↩︎
- 定型約款については、相手方が定型約款の内容を細部まで認識しないまま取引を行っていることが少なくないことから、その不当性判断においては、内容面の不当性と、相手方が認識・予測困難だったという不意打ち的不当性の両面が考慮されます(村松秀樹ほか「定型約款の実務Q&A補訂版」(商事法務・2023年)Q36、37)。そのため、永続的な送金停止が不当な送金の阻止のために必要かつ相当な措置であるか否かに加えて、ユーザーにとって送金留保が予測可能であったかも考慮されています。 ↩︎
- 東京地裁平成29年1月30日判決 ↩︎
- 本件でユーザーが売上金消滅条項の無効事由として主張していたのは公序良俗違反(民法90条)のみですが、事案によっては、定型約款の不当条項規制(民法548条の2第2項)や消費者契約法の不当条項規制(消費者契約法10条)により売上金消滅条項が無効とされる可能性もあります。 ↩︎
- 売上金消滅の趣旨は、出金対応事務負担の回避のみならず、違法な資金移動の阻止や被害の回復を原資とする目的も含まれているケースが少なくないと思われます。 ↩︎
- 裁判例①では、利用規約において送金停止条項が太字で強調されていたことが、不当条項に当たらない根拠の一つとして考慮されています。 ↩︎
- 被害者の特定が困難な場合なども想定されることから、運営事業者としては、没収した売上金の取扱いについては、利用規約に具体的に定めず、広く裁量を残しておくことが考えられます。 ↩︎
- 送金停止・没収される前の場合に備え、平時から売上金をこまめに出金しておくといった対応も考えられます。 ↩︎