はじめに
クラウドファンディングの課税関係については、多数の解説記事や書籍が出されているところですが、本コラムでは、寄付型クラウドファンディングよって個人が資金調達をした場合の課税関係について、裁判例と国税不服審判所裁決例を踏まえて検討します。
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは、一定のプロジェクトを実現するために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金提供を募る、比較的新しい資金調達方法です。
クラウドファンディングにより資金を調達したい人は、インターネット上のプラットフォームに企画内容や資金使途、調達したい金額などを掲載して資金の提供を募り、集めた資金を企画のために使い、資金提供者に対してプラットフォームを通じて報告やリターンを行うというのが基本的な仕組みです。
クラウドファンディングは、一般に、出資に対するリターンの有無・態様に応じて、資金調達者から配当や利息など金銭的リターンが提供されるタイプ(投資型)、商品やサービスなど金銭以外のリターンが提供されるタイプ(購買型)、リターンが提供されないタイプ(寄付型)の3つに大別されます。
所得税と贈与税の関係
寄付型クラウドファンディングは、上記のとおり無償で資金を提供するものであるため、民法上の整理としては「贈与」(民法549条)に当たります。では、このような無償の資金提供は、税法上はどのような取扱いになっているのでしょうか。
まず、民法上贈与と整理されるため、基本的には税法上も「贈与」(相続税法2条1項)に当たり贈与税が課されます。
それとは別に、資産を無償で貰ったということはそれだけ純資産が増加するため、純資産の増加を所得とみて課税することを基本とする所得税も、同時にかかるということになりそうです。
もっとも、この点については、無償で資産を受け取ったという一つの原因で所得税と贈与税の両方が課される事態を避けるため、所得税法9条1項17号により、個人からの贈与による所得については非課税とされています。
第九条 (非課税所得) 次に掲げる所得については、所得税を課さない。 十七 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。) |
ここで法人からの贈与につき所得税が非課税とされていないのは、法人から個人への贈与には贈与税がかからず(相続税法21条の3第1項1号)、そもそも所得税と贈与税の二重課税の問題が生じないためです。これらの条文の文言のみを読めば、個人が無償で受け取った資産にかかる税金は、
法人から個人への無償提供=所得税がかかり、贈与税はかからない 個人から個人への無償提供=贈与税がかかり、所得税はかからない |
と、提供者が個人か法人かによって一律に区分されることになりそうです。しかし、本当にこのように形式的に切り分けることができるのでしょうか。
ここで、個人から個人への無償の資金提供は贈与税という整理は、
民法上の贈与=税法上の贈与 |
という関係性が前提となっています。
以下では、個人が個人から無償で受領したお金について贈与税ではなく所得税が課されると判断した裁判例と国税不服審判所裁決例を紹介します。
個人から個人への無償の資金提供が所得税の課税対象と判断された事例
政治家秘書個人に対する政治献金
東京地裁平成8年3月29日判決1の事案では、個人及び法人から政治家秘書(所得税法違反の刑事事件のため「被告人」)に対する政治献金(裏献金)が、贈与税の対象か(その場合は所得税の対象とならない)否かが争われました。政治献金は、特定の行為の対価として金銭を譲渡するものではないため、献金者が個人か法人かにかかわらず、民法上は贈与に当たります。上記のとおり、民法上の贈与=税法上の贈与と考えれば、政治献金は贈与税の対象であり、その結果所得税は非課税となるはずです。
ところが、この点につき裁判所は、
そもそも、私人間の関係を規律する民法における贈与は、同法に規定する贈与の効力に見合った概念構成をされているのに対し、担税力に応じた公平な税負担を旨とする租税法令における贈与は、その収入の経済的実質を重視し、担税力に応じた課税の実現を期して構成されるべきであるから、両者の概念につき別異に解すべき部分も当然にあり得るというべきである。 …一般に、政治家に対する政治献金は、政治家の地位及びその職務である政治活動を前提とし、献金者から政治活動に対する付託(それが抽象的、一般的なものである場合もあるし、相当具体的なものである場合もある)を伴って継続的に供与される性質のものであり、その中から政治活動のための費用(政治活動のために使用する事務所関係の費用、政党の政治活動費用を賄うため経常的に負担する党費、政治活動に関する交際費等)を支出することが予定されているのであるから、献金に係る金額全額が政治家の担税力を増大させるとはいえない。故に、このような政治献金に係る政治家の収入を必要経費の控除を全く認める余地のない贈与税の課税対象とすることは、一般的に納税者である政治家に極めて酷な課税をもたらすことになって、相当ではない。また、およそ政治家との間に相続関係を生ずる可能性があるとはいえない多数の者から継続的になされるような政治献金を相続税の補完税たる贈与税の課税対象とすることは甚しく不自然2というべきである。したがって、右のような政治献金は、相続税法一条の二にいう「贈与」には該当しないと解するのが相当である。 |
という考え方を示し、個人から個人への献金であっても贈与税の対象である贈与に該当しない場合があることを示しました。そして、以下のように当てはめをして、被告人に対する政治献金を贈与税ではなく所得税の対象であると判断しました。
衆議院議員A1の公設第一秘書であった被告人は、A1議員の政治活動の拠点である東京事務所の総括責任者として、資金面を管理し、他の秘書及び職員を統括する立場にあり、A1議員の政治活動を補佐して多様な職務に従事していたものであって、中でも重要な職務である陳情、各種相談への対応の面では、A1議員が来客と面会する日程の調整をほぼ一任され、A1議員が面会する必要がある者かどうかの判断も事実上していたほか、A1議員への陳情であっても、A1議員へ話を通す前に被告人自身がその裁量で一応の処理に当たったり、あるいは被告人自身がA1議員の公設秘書という立場で陳情を受けてこれを処理することも少なくはなかったこと…このような立場にあった被告人は、A1議員に政治献金をしていた建設業者をはじめとする法人、個人等から毎年盆暮の時期を中心に継続的に現金の供与を受けていたが、A1議員が政界の実力者としての地位を固めていくにしたがって、A1への取次ぎ又は被告人自身による関係者への口利きなどを期待して被告人に供与される現金の額も増えていったこと、その後、被告人がA1議員の公設秘書を辞めた平成四年の暮の時期には右のような現金の供与はなされていないことが認められる。…このように被告人への現金の供与は、政界の実力者であるA1の公設秘書という被告人の地位及びその職務を前提とした上、右のような議員秘書としての活動の付託を伴ってなされ、その趣旨からして継続的に供与される性質を有するものであることが認められる。 …確かに、被告人は、国会議員等の政治家ではないが、前記のとおり、衆議院議員A1の公設秘書としてA1議員の政治活動に深く関わっていたのであり…被告人自身において陳情を処理し、それに関して現金の供与を受けることも少なからずあったのであるから、供与を受けた現金の中からそのような秘書としての活動に関わるための費用を支出することが類型的には予定されていたというべきである…。なお、献金者らの殆どと被告人の間に相続関係が生ずる可能性がない3ことはいうまでもない。 |
当てはめにおいて、被告人の地位及び職務に関する事実について詳細に述べる一方で献金者との関係性についてはなお書きで触れるにとどまっていることからすると、少なくとも本件では、贈与該当性の判断にあたって、献金者との関係性(相続関係を生じる可能性)よりも、付託の有無や資金供与の継続性、経費支出の想定の有無の方が重視されていたことが窺われます。
さて、所得税が課されるとすると次に所得分類(本件では雑所得か一時所得か)が問題となります。
本件では、政界の実力者であるA1議員の公設秘書という被告人の地位及びその職務を前提として、A1議員への取次ぎ又は被告人自身による関係者への口利きなどを期待し、継続的なされるものであって、被告人の地位及び職務に関連した必然的な所得というべきであるとして、被告人の裏献金収入は、法人・個人いずれからのものについても、雑所得として所得税の課税対象になるというべきであると判断しました4。
個人医師に対する開院祝い
平成14年1月23日国税不服審判所裁決5の事案は、小児科医である納税者(請求人)が自身のクリニックの開院披露パーティの際に受領した祝金(以下「本件祝金」という。)の課税関係が争われた事案です。
納税者は、本件祝金は、個人又は法人からの贈与であり、所得税法上、非課税所得あるいは一時所得に該当すると主張しました。この納税者の主張は、上記の、
法人から個人への無償提供=所得税がかかり、贈与税はかからない 個人から個人への無償提供=贈与税がかかり、所得税はかからない |
という一般的な理解に基づいているものといえます。
これに対して課税庁は、本件パーティへの出席者がすべて請求人の事業関係者であること等から、本件祝金は事業に付随して生じた収入として事業所得に該当すると主張しました。
国税不服審判所は、
贈与税の課税対象とされる贈与とは、一般に民法上の贈与(無償契約)であると解されているが、受贈者の事業に関して取引先等から受ける贈与については、取引先等である贈与者は、交際費、広告宣伝費等として支出することが多く、典型的な無償契約とは異なるものである。また、贈与税は相続税を補完する性格を持つ税として設けられたことからみても、事業に関して取引先等から受ける贈与については、贈与税課税になじまないといえる。 なお、法人からの贈与により取得した財産は、贈与税の課税価格に算入しないこととされている(相続税法第21条の3《贈与税の非課税財産》第1項第1号)が、この規定も、相続税を補完する性格を持つ贈与税の課税になじまないという趣旨で設けられているものである。 …本件祝金は、請求人が新たに事業として医療保健業を開業したことに伴い請求人の事業関係者から受領したものであることから、経済的実質から見れば事業の遂行に付随して生じた収入というべきであり、租税法上、このような収入についてまで贈与と解するのは担税力に応じた公平な税負担の見地からも相当でなく…相続税法及び所得税法にいう贈与には該当せず、非課税所得には当たらないと解するのが相当である。 |
として、本件祝金は個人からのものも所得税の課税対象となる判断しました。
上記東京地裁判決と同様、贈与税が相続税を補完する性格を持つという点に触れているものの、相続関係が生じる可能性については明示的には考慮しておらず、また、提供された資金全額が担税力を増加させるか(経費として使用されることが想定されているか)についても具体的には言及していません。本裁決は端的に事業付随性によって贈与該当性を判断したものといえます6。
政治献金は政治活動のために使われることが想定されているのに対して、祝金は必ずしも医院の経営のために使われることを想定されているわけではないので、調達した資金から経費の支出が想定されているという、東京地裁が贈与該当性を否定した理由の一つが、祝金には妥当しないことになります。それにもかかわらず本裁決が祝金の贈与該当性を否定しているということからすると、本裁決は、事業付随性を経費支出の想定よりも重視していることが窺われます。
次に、祝金が非課税所得に当たらない場合、所得分類(一時所得か事業所得か)が問題となりますが、この点については、
所得税法第27条《事業所得》は「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定している。 「生ずる所得」と規定しているのは、事業が総合的な活動であることに着目して、たとえ個々の所得発生の基因となった事実を見れば事業所得以外の所得とされるものであっても、事業の遂行に伴って本来企図した収入以外の収入が付随することが少なくないから本来の事業活動による収入のほか、事業の遂行に付随して生ずる収入については、当該付随して生ずる収入に係る必要経費の有無にかかわらず、事業用資金の運用果実としての利子所得や配当所得など所得税法上特別に規定されているものを除き、事業所得の総収入金額に含める趣旨であると解される。 |
として、請求人が新たに事業として医療保健業を開業したことに伴い請求人の事業関係者から受領したものであることから、経済的実質から見れば事業の遂行に付随して生じた収入というべきとして、本件祝金は一時所得ではなく事業所得に該当すると判断しました。
裁判例・裁決例のポイント
上記判決・裁決は、政治献金・開業祝いについての判断にすぎず、これら以外の資産の無償譲受について同様の判断がされるとは限らないものの、一般化するならば、以下のポイントを挙げることができます。
- 税法上の贈与は一般には民法上の贈与をいうが、イコールではない。
- 資金提供者が個人か法人かで一律に決まるわけではない。
- 贈与税の対象となる贈与か否かの判断にあたっては、以下の事情が考慮される(各要素は相互に重複・関連する)。
- 提供者から受領者への付託の有無
- 資金提供の継続性
- 受領した資産が一定の目的のための費用として使われることが想定されているか否か
- 提供者と受領者の関係性(例:取引先か、相続が発生するような関係か)
- 事業付随性
- 個々の資金提供の内容や個々の提供者と受領者の関係を離れて、資金受領行為の全体を見て判断される傾向にある。
- 受領した資金から費用が支出されることが想定されているか否かよりも事業付随性の方が重要度が高い。
個人に対する寄付型クラウドファンディングの課税関係
あらためてクラウドファンディングによる寄付の課税関係を検討してみると、クラウドファンディングはその名のとおり、社会に散在する少額資本を不特定多数の出資者から集めるものであるため、政治献金や開業祝いの場合以上に資金調達者と資金提供者との関係は希薄であり、およそ相続関係・遺贈関係が生じる関係ではないといえそうです。
また、調達した資金の使途は、クラウドファンディングのプラットフォーム上であらかじめ資金提供者に開示されており、その目的のための経費として使われることが想定されています。そのため、政治献金の場合と同様、提供された資金全額に担税力があるということは難しいように思われます。
特に、企画によっては、例えば村おこしのために古民家を改築してカフェを開業するといった、事業として行うものも少なくありません。この場合のクラウドファンディングは、プロジェクト全体としてみれば事業のための資金調達に位置づけられ、事業の遂行に付随する収入ととして贈与税ではなく所得税(事業所得)の対象となる場合が多いと考えられます。担税力の観点からみても、古民家の取得・改装のために1000万円集め、うち950万円使用した場合を想定すると、1000万円に贈与税がかかるのではなく、50万円を利益として所得税がかかると考える方が自然なように思われます。
なお、資金提供者が法人である場合は、もともと贈与税の対象となる余地がないため、所得税か贈与税かの問題は生じず所得分類が問題となりますが、上記のような事業資金のためのクラウドファンディングであれば、事業に付随する収入として一時所得ではなく事業所得となる場合が多いと思われます7。
判断が難しいのが、資金使途が具体的に決まっていないプロジェクトです。寄付型クラウドファンディングの中には、プロジェクトへの資金提供というより資金調達者個人の自己実現に主眼があり、資金使途も具体的に定められていない企画もあります。このような場合は、事業資金のためのクラウドファンディングや政治献金とは異なり、事業性や(抽象的な)対価性、具体的な経費の想定もありません。判断の手がかりとなるのは、資金提供者が不特定多数であり資金調達者との間で相続関係が生じるような関係性がないという点ですが、上記裁判例・裁決例は、経費の想定や事業付随性をも考慮された事案であり、相続関係(遺贈関係)が生じる関係性か否かのみによって判断しているわけではないため、このような特定の使途と結びつかないプロジェクトについて、不特定多数人からの資金提供であることのみをもって、「贈与」に該当しないといえるのかは不透明です。そのため、上記裁判例・裁決例で考慮された事情以外で贈与該当性の判断に資する事情がないかも検討する必要が出てきます。
仮に「贈与」に該当しないと整理する場合は、次に所得分類の問題として主に雑所得か一時所得かを判断する必要がありますが、上記のようなプロジェクトの場合、政治献金のように対価性があるわけではないため、継続的に資金調達を企画するような場合は雑所得、そうでなければ一時所得と整理することになると思われます。
まとめ
以上のように、個人を資金調達者とする寄付型クラウドファンディングは、資金提供者が法人か個人かによって形式的に区別できるようなものではなく、プロジェクトの内容や資金使途によっては、事業所得や雑所得に区分される場合も少なくないと思われます。
プラットフォームで募集しているプロジェクトは、産業振興、製品開発、エンターテインメント系のプロジェクト、災害復興など多種多様であることから、企画者の属性、企画の目的・内容、資金使途などの個別の事情によって実質的に判断することが重要になります。
(弁護士 玉川竜大)
- 税務訴訟資料217号1258頁 ↩︎
- ここで重要なのは、贈与税が相続税の補完税であるという指摘です。相続税は相続だけでなく遺贈も対象とされており、遺贈は法定相続人以外との関係でも行われることからすると、東京地裁は、単に相続関係が生ずる可能性の有無で贈与税の対象か否かを判断しているわけではないことに注意が必要です。 ↩︎
- 献金者の中には政治家と面識のない者から、法定相続人ではない親族のような比較的近い関係の者もいたかもしれず、その関係性は様々であったと思われますが、東京地裁は各献金者と政治家の関係性から個別に贈与該当性を判断するのではなく、「およそ政治家との間に相続関係を生ずる可能性があるとはいえない多数の者から継続的になされるような政治献金を相続税の補完税たる贈与税の課税対象とすることは甚しく不自然」、「献金者らの殆どと被告人の間に相続関係が生ずる可能性がない」と述べていることからすると、贈与該当性を資金提供行為の全体像によって判断しているように思われます。 ↩︎
- 課税実務上も、個人、後援団体などの政治団体から受けた政治活動のための物品等による寄附などは「雑所得」の収入となるものと扱われています。https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/seiji/r5/pdf/001.pdf ↩︎
- https://www.kfs.go.jp/service/JP/63/12/index.html ↩︎
- 本裁決は、一見すると事業所得該当性の判断が先行しており、事業所得に該当するから贈与税の対象ではないと言っているようにも見えますが、そうではなく、あくまで事業付随性を理由に贈与税の対象ではないと判断した上で、事業付随性を理由に事業所得であると判断しています。つまり、事業付随性が、贈与該当性と所得分類の2つの要件の判断の理由になっていることになります。 ↩︎
- 寄付型クラウドファンディングに対する課税関係を検討する論考として、藤間大順「クラウドファンディング(Crowdfunding,CF)に対する課税―資金調達者に贈与税を課すべきか,所得税を課すべきか」租税理論研究叢書30号77頁以下(2021) ↩︎