アニメ作品の管理運用契約(協議条項)違反により構成メンバーが共有著作権を喪失した事例

はじめに

共同事業に関する契約書において、一定の事項についての協議条項を設けることは実務上広く行われていますが、実際に協議条項違反が争われた事例はあまり多くないよう思われます。

本コラムでは、アニメ作品の共同事業に関する契約に設けられた協議条項の違反が争われた事案で、協議条項の趣旨や事業の性質を踏まえて協議条項違反が認められた裁判例(東京地方裁判所令和7年2月21日令和4年(ワ)第4461号、令和6年(ワ)第70413号)を紹介します。

目次

事案の概要

本件は、アニメ制作会社である原告が、原告、被告映画会社、並びにアニメーション作品(以下「本件作品」)のクリエイティブプロデューサーかつその原作(「本件原作」)の発案者である被告乙の三者で、本件原作の著作権の帰属及び本件作品の管理運用等を定めた契約(「本件契約」)を締結していたところ、被告映画会社が本件契約所定の協議条項に反して本件作品を事業利用したことから、この行為が本件契約所定の権利(著作権の共有持分)喪失事由に該当すると主張して、原告、被告映画会社及び被告乙の間で、被告映画会社が本件原作の著作権を有しないことの確認1を求めた事案です。

本件の事実関係は、以下のとおりです。

このように、本件契約は、制作会社、映画会社、及び原案者であるプロデューサーの三者の共同事業であり、三者で著作権を共有することとしつつも、映画会社が代表として各方面との交渉や収支管理を行うというプロジェクトとなっています。

争点

本件では、被告映画会社の各行為が本件契約所定の権利喪失事由に該当するか、より具体的には、本件作品のメディア展開やライセンスアウトにあたってメンバーによる協議を行うと定めた条項に違反するかが争われました2

裁判所の判断

本件契約所定の「協議」の意義について

まず、本判決は、本件契約所定の「協議」の意義について、

 本件契約においては…協議について、これを具体的にどのような方法で行うべきであるか、どのような内容を協議すべきであるかについては何ら定めがなく、メンバー間において、その方法及び内容についての合意がされていたと認めるに足りる証拠はない。
 そこで、本件契約が本件作品の事業利用に際してメンバーで協議を行うことを求めている趣旨について、検討する。

と述べ、協議の方法等についての定めの有無を検討し、それが認められないことから、次に、本件契約が協議を必要としている趣旨から協議の意義を検討しています。これは、本件契約に限らず、契約の解釈に関する一般的な考え方に沿ったものといえます。

次に、本判決は、本件契約で協議が必要とされている趣旨から次のように協議の意義を判断しています。

 被告映画会社以外のメンバーである原告及び被告乙は、本件原作の著作権者であり…かつ、本件作品の事業利用から生じた収入の配分を受けられる地位にある…ところ、事業利用の態様如何によっては、本件原作の有するイメージや評価が毀損されたり、受けられる配分金が少なくなったりするおそれがあるから、原告及び被告乙は、本件作品の事業利用について大きな利害関係を有しているといえる。
 他方で、本件契約においては、本件作品の事業利用を円滑かつ効率的に管理運用することもその目的とされており…、円滑化及び効率化の観点から、本件作品の事業利用について、メンバー間の合意までは必要とされておらず…、本件作品の事業利用に関わる全ての事項に関し、被告映画会社が決定するものとされている…といえる。
 これらの事情にかんがみれば、本件契約が本件作品について事業利用をする場合にメンバーで協議を行うことを求めている趣旨は、被告映画会社が当該事業利用に係る事項を決定するに当たり、本件原作の著作権者であり、かつ、本件作品の事業利用から生じた収入の配分を受けられる地位にあるメンバーの他の構成員、すなわち原告及び被告乙から、その判断に資する意見を聴取し、参考とすることにあると考えられる。
 前記…の趣旨からすると、被告映画会社からメンバーの他の構成員に対する事業利用に係る報告をし、これに関する意見を求めるという方法も、同趣旨に合致するものであるから、本件契約所定の協議に当たり得ると解される。
 もっとも、前記…のとおり、本件契約が本件作品について事業利用をする場合にメンバーで協議を行うことを求めているのは、本件原作の有するイメージや評価が毀損されることを防止する目的に基づくものであることからすると、被告映画会社からメンバーの他の構成員に対して事業利用に係る報告をするに当たっては、事業利用の具体的な態様や使用が予定されている図案等も併せて示す必要があると解される。
 …以上によれば、本件契約所定の協議は、被告映画会社からメンバーの他の構成員に対する事業利用に係る報告をし、これに関する意見を求めるという方法によっても行うことができるものの、被告映画会社からメンバーの他の構成員に対して事業利用に係る報告をするに当たっては、事業利用の具体的な態様や使用が予定されている図案等を併せて示す必要があるというべきである。

ここでは、協議が必要とされている趣旨を踏まえて、協議方法については必ずしも会議形式のようなものまでは求められず、報告をし、これに対する意見を求めるという方式でも可能としつつも、単に他のメンバーに事業利用に関する報告をするのではなく、事業利用の具体的な態様や使用が予定されている図案等を併せて示す必要があるとして、かなり具体的に協議義務の内容・方法を判示しています。

協議義務違反該当性について

裁判所は、本件契約における「協議」について上記のとおり解釈した上で、本件で被告映画会社が行った各利用行為について、協議義務が果たされていたか否かを判断しました。
判示されている利用行為が多岐にわたるため、判断内容が比較的詳細なものを抜粋しています。

ウ 本件事業利用3(国外販売)について
 証拠…によれば、本件作品は、ビデオグラムの販売を想定して制作されたことが認められる。
 しかし、日本国外でビデオグラムを販売する場合には、文化の違い等から視聴者層や作品の捉え方が日本国内と異なるなどの理由により、日本国内におけるビデオグラムの販売とは別の配慮をしなければならない可能性があるから、日本国内でビデオグラムを販売することを想定した協議が行われていたとしても、そのことをもって国外でビデオグラムを販売することについての協議が行われたと評価することはできない。
 そして、被告映画会社と原告との間で、国外においてビデオグラムを販売することについての協議が行われたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告映画会社による本件事業利用3は、本件契約が規定する義務に違反するものというべきである。

オ 本件事業利用5(広報宣伝活動)について
 被告映画会社が原告との協議をすることなく本件事業利用5をしたことは、当事者間に争いがない。
 また、アニメーション作品の広報宣伝をする場合には、当該広報宣伝用の多種多様な媒体等に当該作品に登場するキャラクター等が描かれることがあり、当該キャラクター等の図案が、当該作品の複製にとどまらない場合も少なくないところ、本件作品についても同様と考えられる。すなわち、本件作品の広報宣伝に当たっては、本件作品そのものとは別個の著作物と評価し得るものが、様々な態様で使用される可能性があるといえる。それにもかかわらず、このような広報宣伝活動における事業利用について、FD製作委員会幹事会社である被告映画会社自らが主体となって実施するものであるとの理由により当然にメンバー間の協議を不要とすることは、被告映画会社が当該事業利用に係る事項を決定するに当たり、メンバーの他の構成員からその判断に資する意見を聴取し、参考としようとした本件契約の趣旨に反するものといわざるを
得ない。
 したがって、被告映画会社による本件事業利用5は、本件契約が規定する義務に違反するものというべきである。

ク 本件事業利用8(出版化事業)について
 被告映画会社は、本件事業利用8について、いずれも原告との間で協議が尽くされていたと主張する。
 確かに、証拠…によれば、被告映画会社が原告に送付した平成25年12月13日付け書面には、本件事業利用8(1)及び(2)に係る本の種別、出版社の名称及び予定発売日が、同平成26年1月31日付けの書面には、本件事業利用8(3)に係る発行・発売元の名称、サイズ、ページ数、予定発売日に加え、本件作品のイラストを多数収録すること等が、それぞれ記載されていたことが認められる。しかし、上記各書面には、各書籍にどのような図案等が使用されるのかが示されていないから、これらの事業利用について本件契約所定の協議がされたとはいえない。
 また、本件事業利用8(4)ないし(6)については、同(5)のうち、コミックの第4話以前のネームに関するやり取りが原告と被告映画会社との間でされたことを除き、事業利用の具体的な態様や、使用が予定されている図案等に関するやり取りがされたと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告映画会社による本件事業利用8は、本件契約が規定する義務に違反するものというべきである。

サ 本件事業利用11(ビデオグラム化事業)について
 証拠…によれば、本件作品は、ビデオグラムの販売を想定して制作されたこと、被告映画会社から、平成25年3月7日、原告に対し、同ビデオグラムのパッケージのラフ案が送付されたことが認められる。
 したがって、被告映画会社と原告との間で、当該事業利用について協議がされたと認められる。

上記のように、裁判所は、作品の事業利用の態様如何によっては本件原作の有するイメージや評価が毀損されたり、受けられる配分金が少なくなったりするおそれがあることを踏まえて、各利用形態ごとにメンバーに示す必要のある図案等の水準を検討しています。

なお、ビデオグラム化事業については、「協議」といえるだけの図案(ラフ案)が原告に提供されていたと認定されています。

各協議義務違反行為が本件契約所定の権利喪失事由に当たるかについて

そして、上記協議義務違反行為について、被告映画会社の行為は権利喪失事由に該当すると判断しました。

 原告は、平成25年10月16日及び同年12月20日、それぞれ本件作品の事業利用については必ず原告と相談の上進行してほしい旨を申し入れた。
 本件全証拠によっても、これらの申入れの際に相当の期間を定めていたと認めることはできないものの、少なくともこれらの申入れがされてから1か月の間には、被告映画会社において、原告との間で、本件作品の事業利用につき、どのような内容及び方法により協議を行うかの検討をすることが可能であったということができる。
 しかし、…被告映画会社は、平成25年10月16日から起算して1か月後である同年11月16日以降も、原告との協議をすることなく…複数の事業利用をしたのであるから、この被告映画会社の行為は、「本件契約に違反し、他のメンバーから文書による相当な期間を定めた催告があったにもかかわらず、当該期間内に違反を是正しないとき」(本件契約第8条1項5号)に当たる。

実務上のポイント

協議条項違反とならないために

著作権の共同管理事業に限らず、共同事業に係る契約書において協議条項を設けることは実務上よく行われています。そうした中で、協議条項は法的拘束力のない紳士協定ないし訓示規定であるかのようにとらえられがちな面があり、実際に法的拘束力のない場合もあります。
もっとも、本件のように、協議が共同事業において意思決定プロセスの一環として位置付けられている場合には、単なる紳士協定と考えるのは難しいように思われます。
本件のほかに、契約当事者による協議条項違反が認められた事例としては、事業提携及び事業再編に向けて2つの大手銀行グループが基本合意書を締結し協議を進めていた中で、一方当事者が交渉を一方的に破棄したことが、基本合意書に定められた誠実協議義務に違反すると判断されたものがあります3

本件は、契約において協議を要する趣旨及び具体的な著作物の利用形態、それに係る当事者の利害関係を具体的に検討した上で4、協議の意義及び求められる協議の方法・情報提供の水準を判断しており、実務上参考になります。

本判決から得られる実務上のポイントとしては、共同事業に係る契約書の作成段階においては、なるべく具体的に協議対象次項や協議方法について定めておくことが望ましいということが指摘できます。
とはいえ、将来の事業展開についてあらかじめ定めておくことには限界があるため、契約締結後の事業実行段階においては、利用形態や作品の性質を踏まえて、協議の方法や情報提供として十分か、実質的に判断していくことが求められます。

権利喪失条項について

本件においては、契約当事者が契約違反をした場合共有著作権を喪失するという権利喪失条項が設けられていたことから、結果として、残存メンバーは契約違反をしたメンバーを契約から離脱させ、共有著作権を喪失させることができました。
映画やアニメの製作委員会契約においても、作品に係る著作権は出資比率等に応じた共有としつつ、契約違反をしたメンバーは共有著作権を喪失する旨定めておくのが一般的です。

このような権利喪失条項を設けていない場合、メンバーが契約違反をした際、契約解除によりそのメンバーを契約から離脱することはできたとしても、共有著作権まで当然に喪失させることはできません。
共有著作権は、共有著作権者全員の合意によらなければ行使(著作物の複製、公衆送信、放送、翻案等)ができないので(著作権法65条2項)、作品の利用に支障が生じてしまうおそれがあります。
そのような事態にならないよう、作品の著作権を共有とする契約においては、本件契約のように契約違反時の権利喪失条項を設けておく必要があります。

弁護士 玉川竜大

  1. 本件訴訟は、被告映画会社による事業利用行為についての差止めや損害賠償を求めるものではなく、また、原告自身の著作権(の持分)の存在ではなく被告映画会社の著作権(の持分)の不存在の確認を求める消極的確認請求であることから、確認の利益が問題となりえます。判決文によれば、本件では争点となっていなかったようです。本件作品の事業利用形態は多岐にわたることから、その根本である、実際に事業利用を行っている被告映画会社の著作権の不存在について確定しておくことが紛争の解決に資するとして、確認の利益は否定されなかったものと思われます。 ↩︎
  2. そのほか、被告映画会社が本件契約関係解消にはやむを得ない事由が必要である旨(及び当該事由は無いこと)、原告による本件契約関係解消の主張が信義則に反する旨も主張し、これらも争点となりましたが、いずれも被告映画会社の主張は退けられています。 ↩︎
  3. 東京地判平成18年2月13日判例時報1928号3頁〔UFJ信託銀行協働事業化事件第一審判決〕 ↩︎
  4. 判決文(当事者の主張の項目)には表れていないものの、本件作品が各利用形態によってどのような影響を受けるか、その利用をの可否を判断するためにどのような資料が必要かなどについては、原告が相当程度具体的に主張立証していたものと思われます。 ↩︎
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